今年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードや2022年に実施される東証市場区分の見直しは、間違いなく日本企業変革のカタリストとなるだろう。上場企業には形式的ではなく、本質的な変革が求められている。アセットオーナーには本気で変わろうとする企業に投資する重要性が、中長期的な企業価値向上やサステナビリティの観点からますます高まっている。
こうした動向は、ニューバーガー・バーマンが運用する「日本株式ESGエンゲージメント戦略」には追い風となっている。割安な日本の中小型企業の中からクオリティの高い60銘柄程度に厳選投資を行い、エンゲージメントによる企業価値向上を通じてアルファの創出を目指す戦略だ。
銘柄選択にあたっては、財務ファンダメンタルズやESG要素、バリュエーションの評価に加え、エンゲージメントを通じた変革ポテンシャルも考慮して銘柄の魅力度をスコアリングし、総合的に判断して企業を選別する。ESG要素の評価では、企業が中長期的に成長する上で取り組むべき重要な環境・社会課題(マテリアリティ)とガバナンスに注目する。分析の結果、導き出された企業の課題には、対話を通じて改善を促す。
設定来のパフォーマンスは好調に推移しており(図)、銘柄選別効果に加えてエンゲージメントも超過収益の源泉として機能している。「エンゲージメントと言えば、多くの投資家にとって主要な投資先である大型株が注目されることが多く、中小型株はこれまで見過ごされがちでした。しかし、経営陣へのアクセスの良さや、提案が会社全体の施策に反映されるケースの多さを踏まえれば、むしろ中小型株にこそ効果的です」。同社日本株式運用部でインベストメント・スチュワードシップ・ディレクターの岡村慧氏は、中小型株に対するエンゲージメントの有効性を強調する。
ニューバーガー・バーマンでは、企業分析を行う運用チームやアナリスト自らが注力する対話のテーマを企業ごとに設定し、エンゲージメントを統括するという点で一線を画す。「投資先企業の現状やその文化までも理解した経験豊富な運用チームが主導することで、経営・財務戦略とマテリアリティの双方に着目した対話が実現し、長期的かつ持続的な企業価値向上につながるのです」と日本株式運用部責任者の窪田慶太氏は語る。
また、同社ではNB VOTESと称する大手運用会社として初となる議決権行使内容の事前開示を2020年に開始した。すでに日本でも9議案に対して実施しており、投資先企業に対する強い意思表示とエンゲージメントの質の向上に寄与している。
企業に寄り添う対話姿勢に応え、投資先から面談の逆申し込みも
ここからは、戦略内での具体的なエンゲージメント事例を紹介しよう。
機器メーカーA社は従来からE(環境)への取り組みには力を入れてきたが、同社が進める構造改革を考慮した運用チームはマテリアリティ分析を通じてS(社会)の部分に改善の余地があると判断。そこで、人事評価や報酬体系の透明性の向上、女性管理職比率の引き上げなどについて必要な施策を取るよう促した。A社は実際に従業員エンゲージメントスコアや新たな人事評価システムを導入するなど、持続可能な人的資本の確保に必要な体制が整いつつある。
また、G(ガバナンス)の観点では経営陣の固定報酬比率が高いことから、株主との目線が不一致になる懸念を指摘したことを受けて、同社は役員報酬を財務指標とESG指標に連動させることを発表。これらの改革を推進する社長を含む取締役の選任に関する議案には、NB VOTESを通じて賛成の意を表明している。
不動産事業会社のB社は、他の投資家からも多様な取り組みを求められていたが、運用チームは中長期的な成長戦略を描く上で、まずは資本政策に注力するよう提言。同業他社のバランスシートの効率性向上策やキャッシュ使途などの好事例を紹介した。こうした提言が受け入れられ、2020年には同社初となる自社株買いが行われた。
「GPIFのアンケートによると、企業は自社のサステナビリティの取り組みが投資家の投資判断において、どう評価されているかが不透明であるという点を指摘しています。そこで私たちは、当戦略の企業評価プロセスを紹介しつつ、市場参加者が企業の何を見てどう考えるのかまで示すことにも注力しており、投資先からも高い評価をいただいています」と岡村氏は話す。実際、こうした変革の意思がある企業に寄り添い、企業価値向上を支援する姿勢に呼応し、一度エンゲージメントした企業の経営陣から逆に面談を申し込まれ、助言を求められることもあるという。
「面談をしていれば、目の輝きや耳を傾ける姿勢で経営陣が本気で改革に取り組むかどうかがわかるものです。投資家が看過しがちな日本の中小型株ですが、投資対象を厳選し、対話を通じて一緒に正しい方向に進めば、伸びしろは大きいと確信しています」(窪田氏)
日本の中小型株の潜在力を顕在化させ、アルファの獲得を追求するニューバーガー・バーマンの手腕に大きな期待がかかる。