当社は、環境、社会、ガバナンスといった重要なESGファクターは、投資機会の創出とリスクの軽減の両方の観点から、長期的な投資リターンの重要なドライバーとして機能すると考えています。また、多くの投資家は、投資パフォーマンスに加えて、ESGファクターがポートフォリオに与える影響を考慮すべきであると考えています。投資プロセスにおいて、戦略や資産クラスにまたがってESGファクターを考慮するために、当社ではNB ESG評価システムと呼ばれる独自のESG格付けを採用しており、企業とポートフォリオの両方のレベルでパフォーマンスに重大な影響を与える可能性のあるESGファクターを特定し、評価に活用しています。本稿では、当社独自の格付けシステムの概要およびその評価プロセスを説明するとともに、リサーチやポートフォリオ管理におけるESG要素の追加的な活用余地を探っています。
ESGインテグレーションの進展段階
当社独自のESG格付けシステムの構築
ESGファクターに関連するリスクと機会を捉えるために、当社のESG投資チームは2017年に当社の社内株式リサーチ部門と協働で、独自の格付けシステムの構築を開始しました。その目的は、当初はラッセル1000のユニバースに焦点を当て、当社の豊富な業界知識や企業に対する頻繁なエンゲージメント、各ESGファクターの財務上の重要性に関する独自の見解を活用して、市場に数多く存在する第三者機関によるESG格付けを超えるESGフレームワークを構築し、ESGに関連するリスクと機会をより正確に特定することでした。
この取り組みは、各業界で企業の財務面に重要な影響を与えるESGファクターをアナリストと共に特定することから始まりました。例えば、プライバシーの保護やデータセキュリティ、知的財産といったテクノロジー業界において重要なESGファクターは、原材料の使用やリサイクル、安全性といったESGファクターがより重要となる包装業界では、重要性が劣る場合があります。これにより、75以上の異なる業界における重要なESG評価項目に関する当社独自のマトリクスが作成され、当社に属するすべての投資チームが追加的なESG分析を行うベースとして活用されるようになりました。
次に、当社の株式リサーチ・アナリストとESG投資チームは、業界に属する企業間の相対比較を行うために、これらの重要なESGファクターに関する個々の企業のパフォーマンスを最も正確に測定する方法の開発に取り掛かりました。その結果、企業のESGパフォーマンスを測定するための3つの主要なツールを特定しました。1つ目は、従来の第三者機関の提供するESGデータの活用で、具体的には広範かつアナリスト的な要素に基づく分析というよりはエビデンスベースの情報であり、市場で入手可能なデータです。2つ目は、当社のデータサイエンスチームを活用した従来とは異なるESGデータで、具体的には、求人情報や労働安全衛生庁(OSHA)、米食品医薬品局(FDA)などのデータベース、従業員による口コミサイト、業界団体やNGOが作成した関連調査などを基にしたビッグデータ分析を行った結果入手可能となるデータです。3つ目の最も重要な評価要素は社内アナリストのインプットであり、通常は数値による測定が困難な規制リスクやガバナンスによる影響(特定の産業に適合性の高い多様なガバナンス指標等)、および将来の気候変動に対する取り組みの進展の予測などのよりフォワード・ルッキングなデータ指標等が含まれます。後者の2つのツールとその評価の例を、図表1にて示しています。
こうした一連のプロセスの結果、環境と社会(E、S)、ガバナンス(G)の個別の要素における、各企業の業種別格付けであるNB ESG評価システムが作成され、当社のすべての投資プロフェッショナルがアクセス可能となっています。格付けの基礎となるデータは毎週更新され、評価対象として追加すべきまたは削除すべきファクターの有無やファクターの測定・評価におけるより正確な方法の検討のために、少なくとも年に一度、セクターアナリストと一緒にレビューされます。
また、ESG評価システムは集計され、ポートフォリオ全体のESG特性とベンチマークのESG特性を比較したサマリーレポートが投資チームに提供されています。2020年12月15日時点で、3,500以上の銘柄について独自のE、S、またはGレーティングを付与しており、ラッセル1000指数の全構成銘柄と、MSCI EAFE指数および MSCI EM指数の構成銘柄のうち90%以上をカバーしています。債券では、世界の先進国市場(非投資適格および投資適格の双方)と新興国市場の企業およびソブリン・クレジットが、ESG評価システムの対象となっています。
図表1:業界ごとに重要なESGファクターを特定し、各企業に対して体系的な方法でESG格付けを付与
独自のESG評価システムの事例:小売・卸売業界
出所:ニューバーガー・バーマン末尾のNB ESG評価システムに関する開示情報をご参照ください。
同業他社と比較した場合の環境、社会、ガバナンスの各要素の重要なESGファクターに関する企業の特性に関する社内株式リサーチ・アナリストの見解。環境および社会のレーティングについては、A-Dの四段階で評価(Aが最高評価、Dが最低評価)。ガバナンスのレーティングについては、1-4の四段階で評価(1が最高評価、4が最低評価)。「大規模小売業者」は、大量販売にフォーカスし規模の経済を実現している小売業者を指し、「コンビニエンスストア」は、日用品を幅広く取り揃えている小規模小売業者を指す。「複合型小売業者」とは、様々な専門領域にわたる商品・サービスを提供する小売業者を指す。「ディスカウントストア」は、他の小売店よりも低価格で商品を提供する百貨店を指す。
スチュワードシップへのESG評価システムの統合
企業に対するエンゲージメントの過程で入手した、より詳細な分析をESG格付けにおいて活用リアルタイムで企業に対してエンゲージメントを実施することで、NB ESG評価システムの評価プロセスにおける実用的な情報および詳細な分析が可能となり、社内のデータサイエンスでも活用されます。例えば、昨年、当社は温室効果ガスの高排出資産を売却したばかりのエネルギー・インフラ事業者と資産売却について対話を実施しましたが、同社の直近の行動は、過去の情報を基に評価を実施する第三者機関による評価にはいまだ反映されていませんでした。一方で、当社は同社から過去の温室効果ガス排出量に対する売却資産が占める比率の推定値を入手し、当社独自のESG格付けへのインプットの調整を実施しました。こうした社内のアナリストとのESG面での協働の結果、企業の実態をより精緻に捉え、フォワードルッキングな性質を持つESG格付けが実現しました。
また別の例では、当社のデータサイエンスチームとの連携により、第三者機関から非常にネガティブな評価を受けていた企業の労務管理慣行について、独自の見解が得られました。また、経営陣とのリレーションシップや、同社が最高水準の職場として外部から賞を受賞していたことも、第三者機関の評価が実態を反映していない可能性を示唆していました。そこでデータサイエンスチームを活用し、従業員による勤務先の評価サイトであるGlassdoorの通信セクターの企業の評価を独自分析した結果、同社は業界内で平均以上の評価を得ていることが判明し、また掲載求人情報から割り出された離職率も22社中7位と、同業他社と比較して優れている水準にありました。これらの代替的なESGに関する情報を活用することで、第三者機関のESG評価よりも高いESG格付けを同社に付与することに確信が得られました。
ESGパフォーマンスの改善や解決に向けたエンゲージメントESGの観点から長期的なアウトパフォーマンスを実現する最大の機会の一つとして、ポートフォリオの保有銘柄に対するESGの実践の改善に向けたエンゲージメントが挙げられます。企業をカバーするアナリストは投資先企業と密接な関係を有しているため、当社が対象企業のESG目標の達成や未解決の問題解決のためのリソースを提供可能な場合が多く存在します。一例として、ホームセンターを運営する小売企業の人的資本管理のアプローチについて、当社がエンゲージメントを実施した事例が存在します。
過去数年にわたり、当社は、従業員の報酬水準や定着率、多様性、そして企業文化などの労働・人的資本に関するテーマについて、また、同社の取り組みをより理解してもらうための情報開示の改善方法について、定期的に同社に対するエンゲージメントを行ってきました。その結果として同社が従業員を重視する方針を採用したことで、新型コロナウイルスのパンデミックの発生時にも効果的に対応することができ、ボーナスの支給など従業員の福利厚生を優先し、店舗の安全を可能な限り確保する等、危機に際して同業他社よりも迅速な行動をとることができたと考えています。こうした優れた対応が、一流の小売企業としての同社の評判を高め、他企業対比でのESG評価の向上にも貢献しました。
また別の例としては、不動産投資信託会社(REIT)に対して長期にわたるエンゲージメントを実施し、重要なESG評価項目のフレームワーク、ESG情報の開示における重要なパフォーマンス指標、同業他社のベストプラクティスについて助言した結果、同社初の試みとなるESG指標の開示が実現しました。当社と同社との関係は今年も続いており、当社の議決権行使の事前開示の取り組み(NB25+)を通じて、複数企業の取締役を兼任する取締役メンバーに対して、今後の他社へのコミットメントを削減することを確認した上で、企業側に賛成する立場をとりました。これらの結果はいずれも、同社のESG特性を改善し、積極的なエンゲージメントの効果性を実証するとともに、議決権行使の意思決定に新たな視点を提供するものであると考えています。
結論
当社のNB ESG評価システムは、企業のESG特性を簡単に要約したものにとどまらず、個々の企業のリスク・リターンのポテンシャルを評価する際に、投資プロフェッショナルにとって価値のあるESG面での詳細な評価とインサイトを提供するものと考えています。特に強調すべき点は、当社の有する広範なケイパビリティをフルに活用して、ESG投資チームやビッグデータチーム、社内リサーチチームが、各領域の専門知識を持ち合って協働した結果、差別化された情報および詳細な分析の入手が実現したという点です。当社は、エンゲージメントの取り組みを強化し、さらに推進することで、投資先企業のESGに関する情報の入手や経営陣の積極的な行動を促す形で好循環を生み出し、これらがESG格付けの改善やより効果的な当社の議決権行使の意思決定に貢献すると考えています。
NB ESG評価システムに関する開示情報
環境および社会のレーティングについては、A-Dの四段階で評価(Aが最も良く、Dが最も悪い)。ガバナンスのレーティングについては、1-4の四段階で評価(1が最も良く、4が最も悪い)。平均ESG格付けは戦略自体のESG格付けを示すものではありません。
当社では、リサーチ部門とESG投資チームが協働し、上場株式と債券の業界ごとの重要なESG評価項目を特定し、企業の格付けを実施しています。個々の企業に対するエンゲージメントを通じて入手した定量データとアナリストの定性分析を用いて、重要なESGファクターにおける企業のパフォーマンスを測定しています。当社のリサーチ部門は、企業の活動や製品に関するESG面での包括的な調査を実施しており、その調査結果は全戦略のポートフォリオ・マネージャーが利用できます。当社のアナリストは、独自のESG格付けや評価の他にも、社内ポータルやFactSetやMSCIなどの外部プラットフォームから入手できるESGデータや調査を含めて、投資ユニバース内の企業を包括的にカバーしています。現状では、ESGデータの開示が限られている企業が多いため、ESG格付けにはアナリスト自身による定性的な判断が多分に含まれています。これらのESG格付けは、社内リサーチ部門のアナリストが企業のファンダメンタルズ分析を行う際や、ポートフォリオ・マネージャーが各戦略の運用プロセスにおけるESG統合のアプローチに活用されています。
E、Sに関する独自の格付の決定方法は、複数のプロセスを含みます。最初のステップでは、当社の社内リサーチ部門の株式アナリストのメンバーが、各アナリストがカバーするセクターにおいて企業の財務面に重要な影響を与えうる環境および社会の評価項目を決定します。次に、リサーチチームはESG投資チームと協力して、公開されている様々な情報源や独自に開発した情報源を活用して、特定の企業のE、Sパフォーマンスを測定するために必要な定量的な情報を特定し、入手します。追加的なインサイトを必要とするE、Sの評価項目については、リサーチ・アナリストは独自の定量または定性評価を使用します。次に、評価した各企業を正規分布に基づいてセクター内の同業他社と比較します。こうした分析により、その企業の総合的なE、Sのパフォーマンスが評価され、それがAからDの四段階評価で示されます。最終的には、アナリストが企業とのエンゲージメントや業界経験に基づいて、評価を最大で一段階調整し、さらに精緻なE、S格付けを実施します。格付けの基礎となるデータは週次で更新され、各セクターの全企業の評価は少なくとも年1回見直されます。
一方で、G格付けもまた、複数のプロセスを経て決定されます。まず、ガバナンスに関わるファクターと過去の株価のパフォーマンスの回帰分析を実施し、株式のパフォーマンス予測に効果的な潜在的な変数を特定します。次に、各セクターのアナリストがこれらの回帰分析の結果を見て、企業業績にプラスまたはマイナスの影響を与えうるファクターを判断して、その重要度に応じて重み付けし、変数として採用します。その後、アナリストは、セクター内の企業について正規分布に基づいて総合的なGパフォーマンスを評価し、これを1から4の四段階評価で評価します。最後に、企業のガバナンス特性に関する標準化された定性評価を実施した後に、各アナリストは格付けを調整することができます。格付けの基礎となるデータは週次で更新され、格付け手法は少なくとも年1回見直されます。